本命D高入試日
E高の補欠が判明して数日後、大本命のD高の入試があった。
作戦は、数学は解き方がわかる問題+αを目標に足を引っ張らない程度取れればよい、国語と英語は数学が悪かった時に引きずらず時間いっぱい粘る、というものであった。
集合が遅く、午前中に2教科、午後に1教科となるため、昼食を持参する必要がある。あうと相談して、小さいおにぎりを二つ持たせる。片方は、あうのお気に入りの『おむすび山 ごま油香る 肉味噌ごはん』にしたのが母の気持ちである。この日は私は仕事があって家を7時半には出たので、付き添いも見送りもなしだった。もしかしたら姉ぷうが見送ったのかもしれない。
通勤途中の8時23分、あうからメッセージを受け取る。
『でた』
予定通りだとほっとする。電車も無事に動いているようだ。
『でた』はわかったが、その後、なんの連絡もない。
この日の私の仕事は、授業4コマと放課後の補習だった。あうの試験は3時近くまでだ。授業に行って職員室に戻るたび、メッセージが来ていないか確認し、今頃なんの試験かあうに思いをはせた。思ったようにできなくてへこんでいないか、泣いていないか、そんなタマではないのはわかっているけれども、心配で心配でたまらなかった。その結果、いつもの3倍は一生懸命授業をした。日頃、比較的力が入った授業スタイルであるにもかかわらず、である。こういうのを祈る思い、というに違いない。
結局『でた』以外、なんのメッセージもないまま時間は過ぎた。『終わった』も『帰った』もないので、娘ぷうにメッセージを送ってみる。
「あうが帰ったら教えて。ママが心配してるって言わなくていいから。」
間もなくぷうから返信があった。
「帰ってきた。英語、解答用紙に名前書いたけど、問題用紙に名前書き忘れたって。」
できたとかできなかったではなく、名前の話かよ、そんなことを心配してたのではないのだが、と誰にともなく脱力しつつも、できなかったという話ではないことにほっとした。解答用紙ならともかく回収された問題用紙の記名など、たいした問題ではないはず。
放課後の補習は、逆に力が抜け気味だったと思う。なんだかんだで帰宅は7時近く、面倒くさいのでコンビニで夕飯を買うことにした。メッセージでその旨送ったが、返信は食べたいものだけが送られてきた。
「顔を見たら、だめだったって気持ちになった。」
私の顔を見た途端、できなかったなあと思い始めたのだそうだ。ぷうからは、帰宅直後、それなりにできたようなことを言っていたと後で聞いた。
数学は過去問より易しかった気がするが、できそうな問題が他に2題くらい手を付けられなかった。国語は漢字が25も出た。英語は最初と最後の問題が難しかった。数学の点数を国語と英語でカバーしきれないだろう、という危惧である。
運の悪いことに、D高の第一次試験の合格発表は4日も後だ。
あうは4日も悶々とすることになる。時間が経つにつれて心配は増す。もうだめだ、という気持ちがゆきだるま式に肥大していく。
D高発表前にC高の入試もあるのに、どうなる、あう?